広報マンとしての朝倉克について紹介しているこのブログ。【報道対応についてできることとできないこと】【ありたいこと「画策志向」と「ストーリーセリング」】と続けてきました。

今回はブランディングについてです。世にブランディングの解説本は数多ありますので、少し視点を変えて馴染みやすい映画の話を持ち出してみたいと思います。

■「スパイ映画」と言えば?

皆さんは「スパイ映画」と言われてすぐに思いつく作品はありますでしょうか? 映画好きの人もそうでない人も含めて世界中にアンケートをとれば、おそらく筆頭に出てくるのは「007シリーズ」ではなかろうかと思います。厳密に調べたわけではありませんが、異論は少ないでしょう。次に出てくるのは「ミッション:インポッシブル」「ボーン・アイデンティティ」「キングスメン」あたりでしょうか。

ここでは、シリーズの長さと興行収入(*1)から言っても、2大巨頭と言える「007シリーズ」「ミッション:インポッシブル」を比較しながらブランディング論の序章としたいと思います。

最初に「007シリーズ」について基本的な説明

1962年(私の誕生年)に第1作が作られ、以来2021年までに全25作品が作られています。累計の全世界興行収入は、76億ドル以上とのこと。(*1 : 参考「映画評価ピクシー」)
1977年から始まった、スター・ウォーズのスピンオフを除くシリーズ全9作の興行成績が88億ドル以上とおそらく世界1位(*2)なので、それに迫る堂々たる人気シリーズであると言えます。

(*2: 私はスター・ウォーズのエピソードⅦ、Ⅷ、Ⅸが始まる以前に、ヨーダやR2-D2、C3-POたちを起用した広告プロモを企画・実行したことがありますが、当時、ライセンス管理を請け負っていた小学館集英社プロダクションの説明資料では、その時点でシリーズ累計の興行成績が世界一と記載していましたので、それを信じます)

【特徴】

  • 主人公は「ジェームズ・ボンド」と決まっていて、俳優の代替わり、監督の交代を含めて60年にわたってシリーズ化
  • ジェームズ・ボンドは軍人で一匹狼。上司の命令に従わないことも多い。フェロモン多く女性にもてるが、意外と残酷でベッドを共にしておきながら結構簡単に殺してしまう。
  • セクシーで、敵なのか味方なのかわからないボンドガールが必ず登場
  • 敵は世界征服をたくらむ巨悪
  • 小道具が登場:マシンガンやまきびし、小型ミサイル、煙幕などが仕込まれたボンドカー。
  • ときに爆弾になり、起爆装置になり、脱出用の細いロープが仕込まれていたり、メリケンサック代わりになったり、丸鋸になったりする腕時計。
  • 小道具開発専門の「Q」が代替わりしつつ必ず登場して、使い方をボンドに指南する。
  • イギリス紳士らしいスーツ姿。しかし胸毛もふんだんに披露。(ダニエル・クレイグにはあったかな?)
  • イギリス人なのにコーヒー派で、紅茶を飲むシーンがない。
  • 拳銃の銃身内部(螺旋)をモチーフにしたおなじみのイントロ映像。
  • おなじみのエレキギターの低音によるイントロ音楽。

これでもかというほどの設定の作り込みですね。

次に「ミッション:インポッシブル」について

1996年から2018年までの全6作で35億ドル以上。ただし、米国のテレビドラマとして前身があり、1966年から1973年にかけて全171話が全米で放映されていたので、その歴史は「007シリーズ」に近いものがあります。

日本では「スパイ大作戦」の名前で1967年からフジテレビ系列で放送され、私も小学校のときに秋田の片田舎で見ていました。その頃、スパイ手帳(サンスター製)なるものが秋田でも大流行したのは、間違いなく「スパイ大作戦」の人気にあやかってだったと思います。証拠を残さないための溶ける紙、尾行を密かに確認するミラー、変装用ツケヒゲなどがセットになっていました。(秋田の田園風景で尾行?とかは言いっこなし)

【特徴】

  • ジェームズ・ボンドのような一匹狼風ではなく、特技を持ったメンバーたちがチームで無茶ぶりのミッションを遂行する。
  • ほとんどのメンバーが変装上手。元モデルの美貌の同士がいたり、電子・機械工学のエキスパートがいたり、バラエティー豊か。そして皆、任務に忠実。
  • リーダーへの指令が毎回同じ「例によって、君、もしくは君のメンバーが捕えられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しないからそのつもりで。成功を祈る」(声:故 大平透さん)
  • 指令の伝達に使ったメディア(テープレコーダーなど)が指令を伝え終わると煙を出して消失する。
  • 火がつけられた導火線の映像と、緊迫感を加速させるおなじみのオープニング音楽。

こちらもきっちりと設定が作り込まれています。

さて、両者から読み取れる共通の特徴について考えてみましょう。

  • 拳銃と色気と、無茶な指令とハラハラドキドキのアクションがある
  • 指令があり、一度は劣勢になり、必ず逆転がある

そのような局所的なことを言っているのではありません。もっと基本的に

考える必要があります。それは、

1)「待ってました」というお決まり(反復)を伴った演出が完成していて、長く一貫してブレがない。(気の迷いのような配役も時にありましたが)

ということです。これに対して2つ加えるならば、

2)ブレが生じないのは、制作側(つまりインナー)に、作品性を維持するための精神、共感(もしく愛情)、プロ意識が隅々にまで沁みわたっているから
3)それら精神や共感が、自分たちの一方的な思いだけで形成されているのではなく、ファンの反応を長く吸い上げ続け、そこから得られた知見に裏付けされている

ということです。これらをさらに言い換えると

1)は「ブレのない世界観の発揮」
2)は「世界観の内部浸透」もしくは「インナーブランディング」
3)は 内外の環境の「ニュートラルな分析を伴うマーケティング的アプローチ」

と言えます。

■強調したいのは「世界観づくり」

たまたまスパイ映画を例に出しましたが、この3つが、企業や団体のブランディングにとっても重要な要素であることは言うまでもありません。

今日でいう「ブランディング」という意識もなく制作された2作品だとは思いますが、見事に基本を押さえた取り組みができている点が評価されて長く成功を収めてきたのだと分析できます。少なくとも007の場合は原作本があり、それを元に1)→2)→3)の順番、もしくは同時に映画作りが進行したと思われますが、企業の場合は経営者や従業員の「想い」を出発点にしつつ、3)→2)→1)の順に戦略を練っていくことが肝要かと思います。提供する有形無形の商品やサービスに込められた原初の「想い」、商品やサービスが消費者に提供する「実力」、成し遂げる「効果」をことあるごとに良好に自然想起してもらい(つまりファンになってもらい)、購買力(求心力)アップに結び付くように仕向けて行く。これが初歩的なブランディングのお作法であるかと思います。

ブランドの語源は、「焼き印を押す(Burn)」であり、辞書には動詞の一つ目の意味として「その家畜が自分の持ち物であるということを示す焼き印(刻印)を家畜に施すこと」と出てきます。これに倣って、広報やマーケティングの世界では商品やサービスの良好なイメージを人々の脳に「刻印」することをブランディングと表現します。
家畜への焼き印は強制的なものですが、企業活動においてはそうではありません。内部的な浸透活動を含めて綿密に作り込んだ世界観を自然に人々の脳に浸透させ、良い意味でキズをつける工夫が必要になります。たまたまスパイ映画を引き合い人出しましたが、この2作品も長年の切れ目のない「キズをつける作業」があって初めて高いブランド力を纏ったと言えると思います。

ことに私が強調したいのは「世界観づくり」です。上記1)2)3)すべてを包含した形での。

例えば、こんな特徴をよく見聞きします。

  • 実直に長く事業をやり続ける姿勢を見せる。
  • 常にとんがった商品やサービスを提供をして話題を振りまく。
  • それを所有するとうっとりするし、誰もが持つことをあこがれる商品やサービスを投入し続ける。
  • 名物の経営者が一見ハラハラする奇抜な商品を投入し、時々ヒットする。
  • 競合が力を入れて提供しているメジャー路線に目もくれず、唯我独尊、マイナーな企画や商品投入だけれども一定の評判を得ている。

これらも「世界感」を持っている商品戦略であり経営ではありますが、もしも経営者や企業側の思いだけで突っ走った結果であるのなら不十分で長続きしないでしょう。
「世界観」を設計するときに、トップの単なる思い付きや受け狙い、独りよがりだけで打ち出してはいけません。商品やサービス、成果物、政策によってお客さまをはじめ世の中や社会にどうなって欲しいのか? どういう体験をしてもらいたいのか?について組織内での話し合いを徹底する。話し合いの過程で、顧客アンケートや社員アンケートから導かれる分析結果をニュートラルにかつ十分に反映させる。そのことを社員全員に浸透させる。そんな取り組みを下地にする必要があるということです。

スタートアップの創業者らが、会社が小さいときに自分の想いを貫いて推進するというのはある程度仕方がないことですが、そんな組織でも5年も過ぎた頃には、世界観を見直し、作り込みのし直しを第二の創業だと思って徹底的に行った方がよいでしょう。実際そのようなスタートアップも最近は多いように思います。

ものすごく低い確率で、独りよがりの世界観が的を射ることはあるでしょうが、概ね「嘘っぽさ」「上っ面だけっぽさ」がすぐにばれてしまいます。とくに現代の代表的な消費者であるZ世代は、そのような薄っぺらさを見透かしますので、ゆめゆめ陥ることなかれ です。

■終わりに

さて、2つのスパイ作品を持ち上げてきましたが、実は私は「ミッション:インポッシブル」のブランディングは「007」には遠く及んでいないという見方をしています。映画としての歴史が浅いからというのもありますが、初めての映画化の段階でトム・クルーズをかっこよく見せるための映画にしてしまったことがアダになっていると思っています。

トム・クルーズ自身、優秀なプロデューサーですし、彼は映画版制作にあたってスタッフと綿密に作戦を練った結果、スパイジャンルの映画として後れをとった作品が007と同じ土俵に立つにあたっては、TVシリーズのままの世界観では弱いと判断したことでしょう。戦略的によほどの特徴を持たなければならないと。そして「トム・クルーズ」という既に完成されたブランドに「すがる路線」を志向したのではないかと勝手に思っています(特にM:I 2以降)。結果、迫力やハラハラ感は断然よくなりましたが、それまでTVシリーズで作り上げてきた作品の世界観が薄まり、”スター トム・クルーズ推し”色が前面に出てしまったことで、違和感を覚えた層も生まれたのではないでしょうか? それは企業でいえば世界観にブレを生じさせてしまったようなものです。

「ミッション:インポッシブル」は興行的にも十分成功してますし、トム・クルーズは同年代で好きな俳優ですが、人々に「スパイ映画といえばM:I」と自然想起させるほどに「脳にキズ」をつけられていない原因は、「ああ、あのスターの映画ね」で終わってしまう向きが少なからずあるからではないかと思えるのです。

企業でも、ひとりのカリスマやスター経営者を押し立ててブランディングに役立てる向きもたまにありますが、気を付けないと「露出心が強い経営者の自分酔い」の雰囲気が醸成され、共感とは程遠い効果が生まれてしまうことでしょう。トム・クルーズのようなとび抜けたスターだからできたことであり、普通の企業でこれを安易にやるのは危ういでしょう。

次回は「ブランディングについて_その2」として、私がやってきたことをご紹介いたします。■

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