■ 自社商材の売り込みを越えて

要人警護が変わる。2023年4月5日のNHK「おはよう日本」で紹介された話題の一つです。
安部元首相の暗殺事件を受けて、要人警護のための考え方が変わってきているというニュースでした。こんな感じでした・・・

  • 私服警護だったのを、わざとわかりやすい警官の制服を着せた「ザ・警官」を配備する
  • 鉄棒のゲージに防弾チョッキの素材で作られた布を被せ壁感を強調しつつ、いざという時はしゃがんで身を守る
  • 火薬のにおいに敏感な警察犬を配備する

こうした話題が紹介されていたわけですが、最後に、AIで挙動の怪しい人間を割り出す という対処法も報道されました。

さてこのニュース、NHKの記者が社会情勢をとらえて自分で企画・取材したニュースなのだと思いますが、もしも、このAIを提供する会社が売り込んだ企画だとしたら、どうでしょう? ちょっとすごいと思いませんか?

記者に対して、自社の(あるいはクライアントの)商材を記事にしてもらおうと売り込むのは、広報マンやPR会社の初歩ですが、できる人はそこに留まりません。とにかく読者に受けそうな面白い角度や切り口を多様に考えて売り込む。そのためにも自社の商材だけでなく、ライバル商材はもちろん一見関係なさそうだが意外な共通点のある商材などを調べ上げる。そしてもっと大きい視点を持った話題に混ぜる。新聞の経済面だけではなく生活面や科学面でのまとめ記事をけしかける。というようなことをします。この市場が生活や社会に影響を及ぼすポイントはここですよ。こうした周辺情報やトリビアがあるんです。昨今のこの大きい話題にもこうして関連してきますね・・・と、あたかも自分が記者の立場で企画して記事ネタをけしかけるような動きをとるわけです。自社商材の主張はあえて慎ましやかにしつつ。

■ 記者への売り込みに必要な「最低限の画策」

私のブログの「その1」でも少し触れましたが、(特に大手新聞社の)記者というのは企業が発するニュースリリースを処理するだけでは社内で評価されないため、「他にない視点」を歓迎します。そのように記者が待ち望んでいる状況において、広報マンがニュースリリースを作成し、社内調整をし、配布することのみに汲々としたり、受け身で取材対応をこなすだけでは露出拡大のチャンスは訪れません。

例えば、芸能事務所が所属タレントを売り込む時に、彼は○○県出身だから、県ネタ番組の時はお見知りおきを。アド街で△△町を取り上げるときは、うちの何某がこんな縁があるのでお声がけを。いまこんな意外な資格を取ることがプチブームですが、実はうちの何某が持ってるので深いところをしゃべれますので・・・などと、自社タレントの採用を勝ち取るために番組企画のようなものまでも持ちかけるのは常識ですが、企業の広報も似たようなアプローチを当たり前に身に着けるべきではないかと思ったりします。

偉そうに言うオマエは実践してきたのか?と聞かれそうですが、残念ながらそれほど大きい話題につなげた事例は多くありません。ご紹介できるのは例えば次のようなものです。

【事例1】

インスタントカメラ&フィルムを販売する会社にいたとき(もう25年以上も前)のこと。
多くの人々は、撮影した直後にカメラから吐き出されたフィルムを手に持ち、まるで急いで乾かしたいかのように一様にパタパタ、ヒラヒラと振っていたものですが、それはなぜなのか? 

今ならチコちゃんが質問しそうな話題です。この妙な現象はネタになると考え、我々広報がいくつかの仮説を立て、定期的にメディアに配布していたニュースレターに話題として盛り込んだことがあります。こんな感じで・・・

  • 仮説1)プロのカメラマンが試し撮りで使用するタイプのフィルムは、撮った直後は写真表面が湿っていて、実際に早く乾かそうとして振っていた。一般人もこれに影響され“インスタント写真と言えばこれ”と刷り込まれたとする「インプリンティング説」
  • 仮説2)インスタント写真とは言っても今日のデジタルとは違って撮影後じんわりと絵が浮かび上がってくるまでには数十秒、満足がいくほどに絵が固定するには数分かかってしまうので、振ればフィルム内の化学反応が早くなるような気がして振ってしまう「待ちきれない&時間短縮説」。(実際は短縮できないのに・・・)
  • 仮説3)多くの人間は何もしない待ちの状態が30秒も続くと、手を顔に当てたりついそわそわしてしまい、それと同じようについフィルムをもてあそんでしまうという単純な「手持無沙汰説」。etc…

このネタはテレビ向きだと思ったので、PR会社の力も借りつつ積極的にディレクターたちを中心に売り込みました。結果的には彼らも面白がってくれ、街頭で一般人までをも巻き込んだ実験風の番組が作られたり、いくつかの雑誌でも取り上げてもらいました。

また、こんなこともありました。

【事例2】

とある地方都市で女子高生たちが安価な使い捨てカメラを使って、なぜか面白がってコミュニケーション楽しんでいるらしいという情報を入手した我々は、その写真に慣れ親しんでいる状況を波に乗せようとして、自社のインスタントカメラとフィルムを彼女たちに提供し始めました(サンプリングといいます)。強要はせず、これも使ってみて、と。数カ月後、彼女たちはインスタント写真の広い余白や表面をマーカーで派手に塗ったり文字を書いたり、存分に使いこなすようになり、自主的にミニコミ誌まで作って自分たちのネットワークで配るような状況になりました(こちらからも多少のアイデアを出しつつ)。この状況がもう少し拡大した段階で全国の女子高生を意識して雑誌広告やTVCMを打ったところ、ティーンエイジャーによる写真ブームに火がつきました。
(この事例については、広報というよりはもはやプロモの仕掛けですが・・・)

いずれにしても、私は広報マンとしてこうした「最低限の画策」は忘れないようにしたいと考えています。

■ メディアに「ストーリーセリング」を仕掛ける価値

最近たまたま見た歯ブラシのCMで、過剰に力を入れすぎるとカチッと音がするという商品がありました。歯にキズが付ちゃいますよという意味で。

まだ使ったことはないですが、私ならばこの商品のPRの一環で、ニュースリリースやSNSでの発信以外に、「それ以上は動作をさせないために、音や光などで気づかせる意外な他の商品」を多く調べ上げ、「新聞の生活面での記事やクイズ番組などで特集したらうけますよ」などと記者やディレクターに売り込むでしょう。音によるノーティスの有効性や正当性を裏付けるために脳の認知機能などを調べたりその道の学者さんを調べたりして、「こんな説は成り立ちませんか?」「この先生なら面白いコメントを出してくれそうですよ」などというアプローチもするかもしれません。ライバル社の商品にも脚光が当たってしまうではないか?と考える向きもあるかと思いますが、それでいいのです。情報提供をしたこちらに対する記者のロイヤルティーは上がりますので

冒頭にあげたテレビニュース「要人警護が変わる」の企画がAI会社の売り込みだったのか?というと、ニュースの佇まいからしておそらくそうではなかったでしょう。しかし画策されたアウトプットだったらいいなとは思うのです。

記者は記者で優秀な人が多いですから、余計なお世話とばかりに自分で責任をもって記事企画を考えますし、疎ましい態度をとる人もいますので、こちらの売り込みの採用率はそうそういつも高いわけではありません。「あいつらは一体何を不毛なことをやってるんだ?」と社内でいぶかしがられるようなこともあるでしょう。しかし世の広報技術の向上のためには、地道も大胆も含めて「画策志向」もしくは「ストーリーセリング」は大事なアプローチではないかと思うのです。

今日、「ストーリーセリング」というと次のように解釈されることが多いと思います。

  • 製品やサービスの性能や使い方、価格などを説明するのではなく、悩みを抱えるお客さまに対して解決策を示す架空の使用事例を作ったり、共感を得るためのストーリーを作り刺さらせること。

これ自体進化したマーケティングもしくは宣伝技法だと思いますが、直接のターゲットは消費者ですし、最近は私のようにすれた消費者が多いので、「企業が一義に売らんとして都合のいい話を打ち出しているな」と見透かされてしまうことも少なくないと思います。

しかし広報の場合、ファーストターゲットはニュートラルな視点を持つ記者であり、彼らに社会的意義や伝える意味を感じてもらえるように「ストーリーセリング」を仕掛けることは、消費者相手とは違う価値があります。人々は記事やテレビで言っていることを広告以上に信じやすいですし、SNSをはじめネットの匿名の記事に信ぴょう性はないと感じる良識ある消費者も少なくないですから。効率こそ悪いものの、広報の結構高度な技術ではないかと思うのです。

■ ChatGPTなら?

さて、このジャーナリスト向けの「ストーリーセリング」、ChatGPTならどのように話を組み立てるのか?とても興味のわくところです。近々、実験してみたいと思いますが、広報マンの仕事を奪ってしまうまでのことにはならないような予感があります。というのは、広報マンは社内調整という泥臭い仕事の部分が現実的には多いからです。例えば、

  • 事業部が発表したいと言ってきているけれどもどこまでその価値があるのか?を吟味する
  • ニュースリリースの文言ひとつを決めるのに、思い入れだけは強くて目が曇りがちな担当者を説得する
  • Q&Aの用意のために「その答えではだめだ。もっと記者が書きたくなる数字を出せ」と何回も事業部側と喧嘩をする
  • ニュースリリースの承認プロセスがうまく回るように役員に根回しする。etc…

このように非クリエーティブな仕事が少なくないのが現実なのです。また、取材対応にしても、役員が余計なことを言ってしまった後に記者と「書かないでくれ。その代わり別の件で埋め合わせするので」などと交渉しなくてはならなかったり・・・
こういう泥臭い仕事はとてもAIには務まらないのではないでしょうか?

このようにクリエーティブな仕事をしたくてもできない現実があるわけですから、とっかかりとしてChatGPTに依頼をするというのはありうる話かもしれません。その精度が高くなくとも、人間が思いもつかないストーリーをつくってくれてこちらにインスピレーションさえ与えてくれるのなら、内実忙しい広報マンにはありがたいことです。

むしろPRエージェンシーの仕事が奪われてしまう恐れがあるように思います。日頃、泥臭いことに忙しい広報マンになり代わって記者への売り込みシナリオを企画し、遊撃部隊として動いてくれる面もありますから。AIがここまでインスピレーションを与えてくれるなら、それで十分…と部分的に見切りをつけられてしまうこともあるかもしれません。いずれにしても実験してみたいと思っています。■

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