「Easy Shooter」F15、アクリル
ニューヨークシリーズ 2/5

1999年初夏の休日、僕は映画を観るためにタイムズスクエアのど真ん中にあるLoew’s Theatresに向かって歩いていた。42丁目にさしかかりもうすぐ到着というところでこの絵に描いた警官に遭遇した。

警官は、42丁目から下を封鎖していて入ってはダメだという。何事かと思い周囲を見ると、アイドルミュージシャングループの(ような)男たちがホテルの大型ビジョンに映っていて、天下をとったような態度でインタビューを受けている。おそらく近所のMTVで行われている収録の模様を流している映像だろうと思った。ビジョンの前には数千人、もしかしたら万の熱狂的な若いファンたち。東京のスタジオアルタ前みたいなものだが、規模が違いすぎる。
警察たちはタイムズスクエアのど真ん中を封鎖し、そのイベントの警護に当たっているようだった。

「そうか、分かったけど単に映画を観たいだけなので、通してくれ」と、僕は警官と交渉を試みた。しかし、「この先の店舗はすべて営業していない。迂回しろ」と警官は言う。僕は、いくらエンターテインメントの街でもこんなジャリタレ(失礼)と、見物しに集まった群衆のために一帯の商業施設も営業を休止するなんてことはとても信じられず、「まあ分かったけど、映画を観たいだけだ。とにかく通してくれ」と食い下がった。

すると警官は、 You want troubles? と拳銃に手をかけ、この絵のように抜こうとした。No、No、Noと、僕はあわてて両手をあげ、あえなく退散。

ニューヨークでは平気で街を閉鎖して映画の撮影をするから、このときももしかしたらそうだったのかもしれない。そこに我を通して入り込もうとした僕が非常識だったのかもしれない。

だけどちょっと待て。この、一般人にも容易く抜こうとする警官ってどうなんだ?

実際の警官は、青白く痩せた貧相な風体で、昨日まで少年だったのか?と思うほどだった。その少年が、家の鏡の前でかっこよく銃を抜く練習を繰り返したあげく、外の現実社会でいよいよ使う時が来たと興奮しているかのようなにおいがした。

この国の警官の多くは幼稚に抜きたがる。だから社会問題になる事件も絶えない。2020年8月、米ウィスコンシン州で、警官が丸腰の黒人男性を背後から7回銃撃する事件にはあきれた。

有色人種に対する差別意識をぬぐい切れず、パニックになるラインが低すぎる臆病な警官。ヒーローのように派手にぶっぱなしたがる理由を探している警官。僕は1999年にその一端を見た気がする。「油断すれば撃たれる社会なんだ」というのは、完全な理由にはならない。 ■

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