俺の人生には存在しなかった銃弾が
唐突にやってきた
硝煙の嫌な匂いが漂う戦場にいるのだから
あたりまえだというのに
戦場にいてなお
どこか別世界のことだと思っていた
最初、誰かの強引な力で
足が持っていかれたと思った
見えない糸をひっかけて
俺の足をいたずらに操ったのかと思った
よろめいて倒れれば土の匂い
おかしみさえ覚えた
撃ち抜かれた足首の一点から
知らない熱さと痛みが広がった
ジエンド、ジエンド、ジエンド・・・
よそよそしい大陸の土の上で僕はおわる
空はやけに澄んで青色が目に痛い
ひこうき雲が一筋
こんな日に死にたくはないなぁ
しかし、不思議と敵の追い込みはなく
命をながらえた
一生杖が必要な体になった
一足先に戦場を離れ
鮮度の悪い魚のような目をして
船の天井を見ながら帰国した
そして、いまは疎開先で杖をつきながら
なんとか農作業の手伝いができている
ひどい夏だった
仲間も知り合いも多く死んだ
人々は打ちひしがれていて
俺もしおれている
それでも、こうしてひと休みしていると
陽と空気と緑と雲の暢気さにふと気づく
こんな他人事な風景に
俺は必要もない気後れをしていたようだ
根拠のない余裕と
正しい遠近感が戻ってくる
ものごとに動じないのが勝ちなのだろうと思う
たとえその「ふり」だとしても
この一服が再生の約束であったらなぁ